Silvia

story


またあした

ジュネスのアルバイトでこの頃頻繁に顔を併せる男の子がいた。花村陽介くん。私の知ってることはといえば、八十神高校の2年生で、ジュネスの店長の息子で私の2歳年下ということくらいなのだけれども。良くも悪くも今時の子で、都会から来たらしい。いやいや、そんなことはどうでもよくて。
 事実として、私も去年までは確かに高校生だったはずなのに、今や大学生の雰囲気にのまれてしまった。ああ、高校生って若いなあ、きらきらしてるなあと時折自分が十代なのを忘れてしまう。特に花村くんを見てるとそう思った。時々オフの時の花村くんをジュネスのフードコートで見かけるが、何やら楽しそうに男女でわいわいやっている。バイトで必死に接客している時とは違う表情に何故か胸がざわついたのを覚えている。なんだろね、羨望?よくわからない。


またあした
「あざっす、アキさん!」
「おお、花村くん、お疲れさま」

 控え室に入ってきて早々、今日もきらきらとした笑顔で挨拶をしてくれる花村くんに、こちらも笑顔で挨拶をする。そういえばいつも思うことなのだけれど、ただのバイト仲間ってだけなのに私のことを下の名前で呼ぶ意図が分らず、気にかかる。まあでも、最近の子はこうも人懐っこいのだろうかと思えば納得がいく(ような気がする)。それほど親しみを持ってくれているのなら悪い気はしないし。

「そういえばさあ、花村くん、すごく美形な男の子と滅茶苦茶美人な黒髪美人と元気ハツラツショートカットかわいこちゃんとよくフードコートに集まってるけど、高校の友達?」
「なんすかそれ…美形な男の子…?ああ、鳴上か…」
 
 控え室のパイプ椅子に腰掛ける花村くん。その私との微妙な距離が微妙な関係を表しているかのようで気持ちが落ち着かなかった。いやいや、ただのバイト仲間ってことは明言できるのに微妙な関係もあるまい。しかし胸のつっかえは未だ取れない。

「そそ、で、花村くんの彼女ってどっちなの?」
「え?は?誰がっすか?」
「黒髪美人さんとショートカットちゃん。私的にはショートカットちゃんといい雰囲気だと思ったんだけど」

 何を問われていたのかを認識できたのか、「はあああああ?!」と大袈裟に驚いてくれる花村くん。この時点では照れているのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。自分の目の前で高速で手を振りながら「違いますって、」と何も責めてないのに真っ青な顔をして否定する花村くんが面白かった。

「いやいやいや、んなこと言ったら里中に殴られますって!」
「…男女4人で仲良さそうだったから、つまりはそういうことなのかなあと」
「どんだけ固定概念に囚われてるんすか!違いますって…」

 そんなに否定しなくても十分分かったから、と言っても本当ですか?と何回も確認してくる。別に誰に言うわけでもないのに。そんなに否定すると逆に怪しいよね?と意地悪を言ってみせると、目に涙を浮かべてくる花村くん。面白いなあ。周りの人達はジュネスの店長の息子だからと肩書きだけで物を言うけれど、花村くん、本当は凄く真面目だし、いい子だし。何も知らない人たちが悪口を言う筋合いは無いと思うのだけれど。こっちまで悔しくなってくる。

「分かった分かった!ちょっとからかってみたくなっただけだって!」
「勘弁して下さいよ…。人の気も知らないで…」
「…人の気?」
「あああ、いやいやいや、なんでもないっす。じゃあそんな意地悪してくるアキさんに一つクイズっす」

 落ち着かないテンションのままの花村くん。彼曰く、今の私じゃ絶対答えはわからないんだそうだ。そう煽られちゃあ解くしかないよね、と返すとそれに対して花村くんは無理っすよと自信たっぷりに言う。

「第一問、どうして最近の俺はアキさんとシフトが被ることが多いんでしょうか!」
「…暇な学生同士だから…?」
「違うっす!残念!」
「…答えは?」
「…教えねっす」

 そりゃないよ、と残念がってみせると、また花村くんはきらきらと笑った。じゃあそろそろ上がりなんで、とはぐらかした花村くんの顔が赤く見えた理由も、やっぱり私のことを下の名前で呼ぶ理由も分らない。また明日もバイト頑張りましょうね、と何で私が明日もバイトを入れているのを知っているのかという理由も分らない。また明日も花村くんに会える。ただそれだけの事実なのにどうして胸が高鳴るんだろう。