▽ story

The my Gazettes.
「泣いてるの?」
「泣いてませんし」
12月1日を迎えた。
いつも、この時期になると、とても死にたい気分になる。足立さんの部屋にある、粗末なテレビに映るニュースでは、どこか北の方で雪が降ったとか降らないとかの話題でキャスター同士が盛り上がっていた。このニュースを見たのももう両手の指じゃ数え切れないほどだった。
うつ伏せになって今日発売のファッション雑誌のページを捲る。何回目の12月1日だったかをきっかけにして、毎回買うようになった。表紙の煽り文句どころか内容すら暗記するくらい、飽きるほどに同じ雑誌を読んでいる。腰にかかる足立さんの頭の重さが愛おしい。私の背中を枕にしてぼーっとテレビを見ているだけの足立さんが。こんな夜中に(明日も期末試験だというのに)成人男性の家に屯する女子高生のなんという悪行よ。ただ、もうそれもそろそろ終わる。だから、せめてこの束の間の幸せを噛み締めていたい。定期試験だって毎回同じ問題が出てくるものだから、皮肉にもあの鳴上君の点数を少し上回って1位を取ることだって出来るようになった。「悔しいな、俺も結構勉強したんだけど」と眉尻を下げながらも笑う鳴上君に、心のなかで「ざまーみろ」と呟いても、結局足立さんの最後は鳴上君たちに持っていかれる。
「だってキミ、鼻すすったじゃない」
「この部屋が寒すぎて鼻水が出るだけですって、もうちょっと暖房の温度上げてくれたっていいじゃないですか、ケチ」
私の腕一本分先にあるエアコンのリモコンに手を伸ばす。背中の錘がリモコンを撮らせまいと圧力をかけ、上手い具合いに私の行動を阻む。こちらともヤケになって、足立さんの頭を振り落とすと、鈍い音と共に足立さんは蹲った。
「…クソガキ…」
「だだだって足立さんが体重かけてきたのがいけないんじゃないですかっ」
ボタンを2,3回押すごとにピッ、ピッとエアコンが音を私に返す。少しカビ臭い温風が髪の毛を揺らした。うつ伏せのまま、また雑誌に手をのばそうとする。と、少し捲れた服の裾辺りがこそばゆくなる。あっ、と気づいた時にはもう少し湿った足立さんの手が服へと侵入していた。
「ちょ、へんったい…。やーめーろーおお…ッ」
「何これ、すごい鳥肌」
私の力が抜けたことをいいことに、腰のあたりに腕を両方共回してくる。臀部から下に足立さんが乗っかっているせいで上手く身動きがとれない。私の足の間に足立さんが割って入ってくる。そのまま両脇をくすぐられ、次に手をずらしたかと思うと、ブラと肌の間に指を入れてくる。少し爪を立ててから胸の輪郭までたどり着くと、足立さんも私の腰が疼いてしまったのに気づいたのか、笑い声を私に聞かせた。
いつもこのタイミングだけは計り知れない。いつ足立さんにスイッチが入るのかが。こればかりはいつも同じじゃなかった。勿論、毎回細かな日常は違ったりするのだけれど、足立さんの行動に至っては──。もはや私がどうこう出来る話でもない。
「あ、アキちゃん明日テストなんだっけ?支障あったらごめんね?」
「止める気無いくせに何言ってるんですかっ…」
「あれでしょ?打倒堂島さんの甥っ子くんだったんでしょ?」
悠くんの名前を出されると同時に、いつの間にか移動していた足立さんの左手が腰の骨を擦る。ふと反射的に出てきた同級生の顔が脳裏にチラつく。こんな痴態の最中に彼の顔を思い出すことで何故か恥ずかしい気持ちになってしまう。
カーペットの毛を掴むことで、せり上がってくる熱さに耐えた。汗ばんできた顔に髪の毛が張り付く。ずり上げられた下着が胸の上を締め付けた。その下らへんで足立さんの手が胸を弄る。
「──ッ…」
「どうする?ベッド行く?アキちゃん、そろそろ欲しい…頃、でしょ?」
そう言って、足立さんが自身の腰を私の太ももに擦り当てる。首を曲げて見てみれば、スウェットの形が変わるくらいに固くなったそれが太ももの付け根付近に宛てがわれていた。最後の無駄な抵抗も余儀なく、腰を持たれてベッドに半ば投げるように寝かされる。
「ざ、っし…読もうと思ったのに…」
霞んだ視界の先に、若い女の子が最新の洋服で笑顔と共に写っているページが開かれた雑誌が放置されていた。ああ、と私のシャツを脱がせながら足立さんはせせり笑った。
「あの雑誌、もう何百回も読んでるんでしょ?内容だって、覚えちゃってるくせに」
「…あだッ…」
言いかけた私の唇を無理やり塞ぐ。今は何も言うなと言わんばかりに、足立さんは舌をねじ込んだ。段々意識がぼやけていく。足立さんを愛しているという事実だけが残って、他の何もかもを忘れてしまえばいいのにとも思ってしまった。