▽ story

夢を喰べて死ね
今どきは珍しいであろう、開放された屋上で私と鳴上悠は向き合っていた。昼間はそこそこの暑さだけれど、下校時刻も過ぎたこの時間帯になると、少し肌寒い。物理的な肌寒さとは別に、この男から感じられる背筋をなぞるような寒さが気味悪かった。
「先輩、俺と…付き合ってくれませんか」
熱を帯びた愚直な瞳、形の良い唇がとてもスローがかって動いたように見えた。一つ年下の、ついこの間転校してきたという男の子は緊張を見せつつも、その裏に窺える自信がやけに鼻につく。最近やたらと話しけてくると思いきや、私とそういう関係になりたいと言い出す彼の意図が全く分からなかった。鳴上悠と特別な出会い方をしたわけでもないし、私は彼の取り巻きのような存在でもない。まあ理由はどうであれ、さて、どうしたものか。ここで私がきっぱりと断る以外の答えを出したとしようか。そうしたら、恐らく…いや、確実に足立さんが五月蝿い。「アキちゃんのことはなんだって知ってるんだよ」という口癖が伊達ではないくらいなので、誤魔化すということは出来ないはず。
「俺、アキ先輩が足立さんと付き合ってても、それでも、いいんで…」
「いや、さ、君が良くても私が浮気になっちゃうでしょ?」
自分で言うのも気がひけるのだけれど、足立さんは病的なくらい異常なまでに私に執着を見せる。本当は学校になんて行かせたくない、みたいなニュアンスを含めるような言葉を幾つも聞いてきた。彼の最後の良心なのか、はたまた世間体を気にしているのかは知らないけれど、幸いな事に実行にまでは移されてはいない。…こうやって私が男の子と話すだけでも口うるさいっていうのに、告白されとなれば、また悲しげな目で私を犯すのだろう。ということで出来るだけ面倒事は避けて通りたい。それが人間の道理。私も数多い人間のうちの一人なのだから。
「それでも、俺、諦めきれないんです。アキ先輩が好きなんです。初めて会った時時からずっと先輩のことが頭から離れなくて、毎日毎日先輩のことだけ考えてたんです」
「(参ったなあ…)」
彼が何故私に固執するのか理由はさておき、鳴上悠はとても厄介だ。学年一位になるほどの頭脳の持ち主だからというわけでもない。ただひとつ…、この人は足立透に似ている。私への執着の仕方というか、物腰は柔らかいけれど、滲み出る独占欲が隠しきれていない。足立さんを相手にするのでも一苦労だというのに、またひとり増えてしまったら私の身が持たない。
「あ、そうだ。じゃあさ、鳴上君が直接足立さんと交渉してみなよ。その返答次第で私も答えてあげる」
「本当、ですか」
「うん。約束は守るよ」
「足立さんを、説得させればいいんですよね」
分かりました、と目を伏せる鳴上君の横を通り抜けて、ドアの向こうの階下へと下る。
足立さんは私の愛を得たいが為にやたらと献身的である。朝7時、私の目覚めとともにケータイの着信が鳴るのは勿論、メールをし始めたらこちらから切るまで必ず3分以内に返事が来る。献身的、というよりは先程も言ったが、病的だと思う。かといって私に暴力を振るうとかは一切ない。あ、でもたまに足立さんの機嫌がよろしくない時のセックスは少し痛かったり、ねちっこかったりする。愛されているといえばそれまでだろうけど、そこら辺のカップルとの関係性とは一線を画しているとは思う。
そんな足立さんが鳴上君の交渉に頭を縦にふるはずがない。私を自分のものだけに留めておきたいとする彼のことだ、最悪鳴上君をテレビの中に入れかねない。
「(あーあ、これで3人目かなあ。八十稲羽も物騒になったものだ)」
*
女子高生が30近い男性のアパートへと足を運ぶだなんて言葉ひとつでさえ、世間では危険で不埒な響きなのだろう。否定は出来ないし、そういう事前提で付き合ってるのだし。あ、でも、もしかしたら私が女子高生というステータス一つ欠けていたら足立さんは私のことなんか相手にしなかったのかもしれない。
決して新しいとはいえないアパートの階段を登る。定期的なメンテナンスが行われてるとは到底思えないような、サビが表面を侵食している鉄板が踏まれる度にヒールの高い音を反響させる。
『今日家に来て』とだけのメール一つで足立さんの家に出向くことももう慣れ過ぎている。勿論、私の親は足立さんと付き合っていることは知らない。というか、一人娘だというのに私に無頓着な親は心配するという考えすらないのかもしれない。どんなにいい子にしていたって、テストで100点とったって褒められたことなんか一度もない。かと言えば人のミスをあざとく見つけて酷く叱ることだけは得意な大人なんかに親と言えども心を預けることなんて出来るはずもない。足立さんは違う。私を好きだと、愛してると言って私を必要とした。足立さんは、私に縋るように私を求める。求められただけ、私は足立さんを愛す。ただ、最近は手に余る愛をどうしたらいいものかと悩む毎日である。
ドアホンをひと押しすると、ドアノブに手をかける。私と足立さんの取り決めだった。足立さんの家に入る時は、ドアホンを一回鳴らしてからドアを開けるというもの。その些細な取り決め事すら愛おしいと思ってしまうものだから私も病に冒されつつあるのかもしれない。
「足立さん、来ましたよー」
「そのまま奥、入ってきてよ」
靴を脱ごうと、玄関口で屈むと、見知らぬ男物のローファーが一足置いてあったのに気づく。勿論のこと足立さんのものではない。そもそも私と足立さんが会う時に第三者が居ることはまず無かった。二人の時間を他の誰かと共有することを酷く足立さんが嫌うからだ。
「…足立さん、お客さんですか?」
締め切られた部屋を仕切るドアを恐る恐る開くと、ベッドの縁に腰掛ける足立さんと……ローテブルの横に正座する鳴上君がいた。何故…?確かに私は鳴上君に足立さんと交渉しろとは言ったものの、私も交えてだとは思ってはいなかった。不審そうな目つきをしていたのか、足立さんが立ち上がり、私の方へと歩み寄る。
「何で悠くんが居るの?って顔してるね。いや、さあ、どうしてもアキちゃんのこと好きだって言うから。駄目だよって言ってるのに、ね」
手の甲で私の頬をするりと撫ぜると、足立さんの肩越しに視える鳴上君は羨ましそうに唇を噛み締めながらこちらを見ていた。いつもより若干性急な足立さんが両手で私の顔を持ち上げると、唇を重ねる。少し息苦しくなるまで重ねあわせ続ける。離れる間際に足立さんのねとりとした舌が私の唇を舐めとっていった。
「ほら、僕のだって見てもらえば一番早いかなって」
そのまま腕を私の腰に絡めると、ベッドへと連れて行かれる。先ほどまでそうしていたように、足立さんがベッドの縁に座ると、その足の間に私を座らせた。さすがに人に見られたまま致すのは気が引けるので、鳴上君へと目配せをする。鳴上君の事だから、察して出て行ってくれるか若しくは足立さんを止めるかしてくれるかもしれない──。そんな考えを持った私が馬鹿だった。熱っぽい目で私に近づいてきたと思うと、スカートから伸びる私の素足に手をかけた。
「ちょ…君は触らないでおいてくれない?」
「足立さんだけ、ずるいですッ…」
私の胸を形が変わるくらいに揉む足立さんが背後に、そして視界いっぱいに広がるのは私の膝を跨って、私を見下ろす鳴上君だった。わざとなのか確かめ難いが、時折私の膝に当たる鳴上君のそれは既に熱を帯び、固くなり始めていた。私の体の横に伸びる足立さんのズボンを掴むと、鳴上君の端正な顔が近づいてきた。
「俺も、アキ先輩が欲しい……。ね、いいでしょ?」
「ッあ…」
「あーあーあー、もう悠くんたらしょうがないなあ、じゃあ、アキちゃんをヨく出来たら許してあげる」
「…ッだちさ…」
「先輩、大丈夫、痛くしないから」
スカートの中に鳴上くんの大きくてきれいな手が差し込まれた。欲望に掻き立てられた二人が私を優しく犯す。
tytled by トロールとスヌス様