Silvia

story


機械のひと

機械であるカイトに、恋愛感情の有無を聞くのはとてもではないけれど気が引けた。男友達はミクとそういう仲らしいけれど、VOCALOID皆がそういう感情を持つとは限らないらしい。製造元は一緖であったとしても、使用者によって後の性格や感情のバリエーションといったものは異なるんだそうだ。それを知ったのはついさっきのこと。少なからずカイトに特別な感情を抱いてしまっている私からすれば、私が人間の男性に恋をしているのと同じで、カイトが私をどう思っているかとか、既に私の悩みの種の一つと化しているのだ。というか、カイトの気持ち云々以前にロボットとの恋など認められているはずがなく。VOCALOIDや他のアンドロイドとの恋愛が増えてきてしまっている今、この世の中では黙認とされてきているが、子孫を残せないロボットとの恋愛は基本的には禁止されている。カイトを購入時に渡された、ロボットの付き合いについてのパンフレットに禁止事項として記載されていた気がする。ただ、それは表向きの話であって、さっきも言ったとおりにロボットに恋する人々が増えた他愛玩用に調教したり、そういうような風俗だって繁華街の裏道を通れば直ぐに見つかるのが実際。…だから、私の恋だって否定されるばかりの理由は無いはずだ。そう思わなければ辛すぎる。

「ラブソングは飽きたよねえ、カイト」
「いいえ、マスターが言うなら俺は何だって歌いますよ」
「あー、そう」

この会話だってマスターと、アンドロイドが前提の会話だ。アンドロイドは人間には逆らえない。どう足掻こうと、最初からプログラムされているからだ。なんでも、アンドロイド発展の為に人工知能開発が盛んになった当初、人間と同じく不満をもったアンドロイドたちが暴徒化したという事件があったらしい。勿論、人間のほうがアンドロイドより優れている、アンドロイドを作ったのは人間なのだという考えが人工知能に規制をかけた。それを解こうという輩もいないことは無いが、皮肉にも技術者の方が上手だったらしい。…本当に、世の中は規制を掛けることだけはピカイチだなと皮肉ったものだ。

「次はブラックな歌作ってみようかな」
「いいですね、また違った感じで」
「ロボットが、人間を愛しすぎて殺しちゃう歌とか」
「…」

押し黙ったカイト。閉じている口は人間そのものだ。きっと触れれば人間のそれと同じように温かく、柔らかいはず。その感触を確かめるために私が迫ってもカイトは逆らえないから、何をすることだってできる。ただ、私が実際にそう行動を起こさないのは、カイトが人間だったらと見立てているからである。カイトが人間だったら、拒んで、何故だと私を罵倒して、もしかしたら出ていってしまうかもしれないから。でも、カイトはアンドロイドであって人間ではない。マスターである私に逆らうことなんて出来ない、のに。無意味な妄想が私に理性を与えた。

「なんちゃって。やっぱりほのぼの系にしようか」
「いや…大丈夫ですよ、俺は…」
「…ロボットが人間に恋するってどういう感じなんだろうね、そういう歌詞を書きたくても思いつかなくてさ。人間がロボットに恋する気持ちってのは、痛いほどに分かるんだけど」

え、とカイトが声を零した。

 今現在はテレビ放送などもう終わっている深夜。数時間前にやっていたバラエティ番組みたいな茶番だと私は思っていたけれど、カイトの表情を見る限り、そうではないのかもしれない。うつむきがちに、頬を紅く染めたカイトが私の座っているソファの前に立った。両手を握り締め、微かに震えている。目を、強く瞑っていた。

「俺は…ロボットですけど、人を愛してしまったことはあります」
「…へえ」
「違う…愛しているんです、マスター…、俺は、マスターが…マスターを…」

ボロボロと目から滴る雫は感情を表現するためのただの水だった。人間のとは違い、生理的に流れるものではなく人工知能が悲しいと信号を出したときに目の付近にあるパーツから出てくる水だった。だと、分かっているはずなのに私もだんだんと悲しくなってくる。唇を噛み締めれば噛み締めるほど、涙が溢れてきてしょうがない。

「カイト…おいで」

両腕を広げると、カイトは惜しみなく私の腕の中へと収まった。正確に言えば、成人男性を抱きしめている形になるので幾らかカイトの身体が余った。カイトの頭を抱きしめる。カイトも私の背に腕を回す。何故だか、ずっと謝罪の言葉を口にするカイトを、私は黙らせた。

「謝らないでよ、知らず知らずのうちにカイトがそんな感情を持っちゃったのは私のせいでしょ?」
「違い…ます、マスター。これは俺が勝手に…」

腕の中で必死に弁解するカイトの額にかかる髪の毛をどかす。これでもかというくらいに、額に唇を押し当ててやると、カイトは面白いくらいに身体を跳ねさせた。

「それでも大好きなんだよ…」
「俺も、です。どうしよう…凄く、幸せだ…俺」

目を細めたカイトとともに、真っ赤なソファに倒れこむ。カイトの温度を楽しんでいたのも短い間で、気がつけば朝日が差し込む頃であった。目を覚ました途端に額に触れる柔らかさが、私を出迎えた。「おはようございます、マスター」といつもと違う距離にあるカイトの顔が凄く、綺麗だった。