▽ story

SS集
(HQ/赤葦)
「アキさん、そんな可愛いストラップつけてましたっけ」
「木兎聞いて今赤葦くんが私のこと可愛いって」
「言ってません」
「赤葦も言うようになったな!」
「言ってません」
これ、と赤葦がスマホを操作するアキに近づく。掬うようにイヤホンジャックから垂れるブリキで出来た猫のマスコットが付いたストラップをつまみ上げた。アキは昔から可愛いものより実用的なものを選んだし、赤葦が知る限りでは"可愛い物"とは縁遠いはずであった。自ら購入したとも考え難いし、だとしたらプレゼントという線が妥当だと考えついた赤葦の心情は穏やかなものではなかった。アキの誕生日はまだ随分と先のはずだし、と考えれば考えるほど赤葦は気分が悪くなる。
「日曜に黒尾くんと出掛けたら買ってくれた」
「黒尾…って音駒のか?」
「そー、デートしよって」
赤葦の中で幾つか思いついていた、アキがストラップを手にする経緯の一つが黒尾鉄朗の存在だった。男子バレー部のマネージャーということと、やたらと気さくな性格が相まって他校の生徒に顔が広い。その中でも連絡を頻繁に取り続けていたのが黒尾鉄朗だった。別に人としては嫌いでは無かったが、アキが絡むとなると話は別だった。自分の存在を植え付けるかのような猫のストラップが忌々しい。
「音駒マネージャーいないし、女子に餓えてるんじゃないのか?」
「えー、黒尾くんモテそうじゃん無い無い」
「二人で、出掛けたんスか」
赤葦は思わず自分の心臓が飛び出そうなのを手で抑えたい衝動に駆られた。胃がせり上がる。顔はいつものポーカーフェイスを気取る代わりに、その他の器官の抑制が効かない気がした。アキは屈託もなく「うん」と答える。
「じゃあ俺と出掛けてくださいっていったら出掛けてくれますか」
「赤葦くんと?いいよ?」
「おう!それなら俺もい… 」
「木兎さんは来ないでください」
えっ…と固まり、徐々にしょぼくれモードに入る木兎を制する赤葦はフォローをしない。ふん、とため息をつくと、赤葦は続ける。
「今度、二人きりで、会ってくれますか」
「ええ…いいけどなに、赤葦くんバカ真面目に…いつも真面目だけど…こわ…」
「怖くないです。いいですか、今度二人きりですよ」
子供に言い聞かせる母親のように、赤葦は何度も何度も繰り返した。
14.07.16
*
(HQ/孤爪)
孤爪研磨は人前に立つのが得意なわけでは無かった。学生生活を続けて11年目、幾度となく訪れるこのシチュエーションに、胃が痛くなる。壇上で発表、の文字が襲いかかってくる。面倒臭いのもさながら、人前での発表に、気が進むはずが無かった。発表すれば声が小さいと先生から煽られ、質問時間がくれば何故か自分のときだけ上がる手、全てが憎く思えた。グループワークならば、自分をアテにしない班員がそれとなく頑張ってくれるので、それほど苦では無かった。今回は二人一組で、時事問題についての簡単な発表だった。相手は幸いなことに幼馴染であるアキだった。研磨は心の底から安堵した。しかし、おんぶに抱っこでは格好がつかない、と気を引き締める。アキと互いに練りに練って作った資料と原稿を取り出す─、が、クリアファイルに挟んでおいたはずの原稿がない。資料は一番手前に挟んでおいたものの、何の手違いか原稿だけが見つからない。しまった、と思うと同時に血の気が引いた。先生に促されて、アキと共にままならない足取りで席間を歩く。
「アキ…ごめん、おれ、原稿家に忘れた」
ごめん、ごめんと半ば泣きそうになる研磨にアキはため息をつくどころか、優しい目で研磨を見つめる。大丈夫、と研磨の背中をひと押しする。
「心配しないで、」
と黒板のど真ん中に陣取る。資料である写真を印刷したA4の紙を持つ研磨の手は震えている。ずっと下を向き続ける研磨の耳に届いたのは、通った声で何の迷いもなく発表をするアキの声だった。え、とアキを見やると、目線がかちあう。ね、大丈夫でしょ?とでも言うようにアキが微笑んだ。
14.07.16
*
(HQ/及川)
アキに恋人ができた。アキとは昔からずっと一緒だった。元々俺の母さんとアキのお母さんが高校の同級生らしくて、本当に生まれた時からずっと一緒だった。どちらかの家に行けば、俺とアキ、どっちが歩き始めるのが早くて、だとか昔一緒にした悪戯を掘り起こされるのは日常的だった。岩ちゃんも幼馴染だけど、それよりずっと昔からずっと一緒で、俺もアキもお互いを好きなことが当たり前だと思っていた。世間で年頃と呼ばれるような年齢になった頃、俺が女の子と付き合ったのも、いざアキと付き合うことを公言できる状況になった時にアキを困らせることなくリード出来るようにとちゃんとアキを考えてのことだった。あの時の女の子には申し訳ないけど、俺自身の経験とスキルの習得のためだからしょうがない。俺が女の子と付き合うって言った時、アキは絶望の淵に立たされたような顔をしたよね?俺、正直その時興奮したんだ。アキがそんな表情をするのは俺のせいなんだって。俺のことが好きだから悲しそうな顔をするんだって。俺があの時謝ったのは、アキと付き合えなくてごめんね、ってことじゃなくて少し寂しい思いをさせてごめんねってことだったんだよ。アキも分かってくれてると思ってたのに、自分がされて悲しい事を俺にもするの??
「彼氏、が出来たってどういうこと」
「ん?そのままの意味だよ、彼がね、私のこと好きだって言ってくれてね」
思わず言葉を失う俺に対して、アキはにこにこと、悪気なんて微塵もないようなきらきらした目で俺を見た。徹くん、どうしたの?なんて、どうしたの、じゃないでしょ。ねえ、今までその男の名前何回呼んだの?きっとアキは素直だから変な男に騙されてるんだね、大丈夫。ずっと俺が守ってあげるから。
14.07.01