Silvia

story


あまいりんご

「なに、アキ家具に興味あんの?」
「イエス。謎の模様替え欲がわいたので、クロ達手伝ってね」
「駄賃貰うぞ」
「……面倒臭い」

 アキは分厚い家具通販の雑誌に目を走らせる。気に入った家具が載っているページには折り目をつけ…を繰り返し、雑誌終盤のバス用品のページを一気に飛ばすと、表紙を閉じた。カーペットの上にうつ伏せ状態で寝転がっていたのから、起き上がると肩が軋んだ。アキの最近の悩みは朝起きたあと身体を起こすと全身が軋むように怠くなることだった。前日の疲れどころか更に疲れが蓄積されるような感覚に頭を悩ませていたのである。通常ならマットレスを買い直せば良い話なのだろうが、螺子が緩みきって寝返りを打つたびにがたがたするベッドフレームもついでに買い替えてしまおうと思いたって通販雑誌を手にしたのだった。母親に相談すると、渋々ながら了承も得られたのである。そしていざ通販雑誌に目を通すと、ベッド以外の家具に目が行き、最終的には部屋の模様替えに行き着いたのであった。

「いいなあ、研磨のベッドめっちゃ寝心地いいもん…。ね、研磨今夜から一緒に寝よう」
「ちょっとちょっとちょっとアキちゃん不純じゃない?年頃の男女が同じベッドで寝るだなんてクロお兄ちゃんは反対かな」
「…俺はいいけど」
「…ほお」
「クロ考えすぎ変態。つかお兄ちゃんとかキモいわ同い年なのに」

 クロはそう言うお前こそ無防備で無頓着なんだよ、とキャミソールから覗く谷間に目をやる。アキは無意識のうちにクロと研磨を男として見ていないのである。そういう意味では幼馴染という括りに縛り付けられているのはクロと研磨の方で、アキに寄せる淡い気持ちを小出しにしてみても何食わぬ顔でかわされてしまうのだ。その当事者が"一緒に寝たい"だなんて誘惑を掛けてくるものだからタチが悪いとクロと研磨は頭を抱えた。

「俺、はいいよ。ちょうど抱きまくら欲しいと思ってたところだし」
「えー、私抱きまくら?」
「俺のベッド貸してあげるんだから、交換条件」
「まあ、いい…」
「よくねえだろ」

 アキの隣に座るクロがぐっとアキの肩を抱く。されるがまま、クロへともたれ掛かりスマホをいじるアキは研磨の猫目がその様子を見据えていたのを知らない。研磨がじゃあ、と立ち上がるとベッドへと移動する。出来るだけ壁際に寄ってその身を横たえると、アキに向かって空いたスペースを二回ほど叩く。

「おっ、じゃあお邪魔します」

 スルリとクロの隙間を抜けて研磨の隣に横たわる。アキの身体を受け止める綿が少し沈んだ。はい、と研磨が両腕を広げると、クロよりは狭い胸に転がり込む。アキ着ている洋服の、薄い生地越しに身体を密着させる。クーラーがこれでもかというくらいに効いた部屋だと、互いの熱がちょうど心地よく感じる頃合いだった。

「アキ、俺の首に腕回して」
「うん?」

 言われた通りに研磨より白い腕を回す。研磨はアキの胸元に擦り寄ると、瞼を閉じた。香水などつけていないはずなのに、仄かなアキの匂いに鼻腔が満たされた。
時計は14時半を指している。昼寝には絶好だと言わんばかりに研磨の意識が薄れていく。研磨の眠気にアテられたのか、アキも自分の瞼が重くなっていくのが分かる。それでもまだスマホのアプリゲームが終わってないから、と研磨の頭の上でスマホを操作する。

「……研磨それ、ずるくね?」
「クロも昼寝する?流石にベッドに三人は無理そうだけど」
「やってみなきゃ分かんねえだろ、と…アキ、もうちょい詰めて」
「ええもう無理だって、研磨潰れる」

 190センチ近い図体のクロが半ばアキに覆いかぶさるようにしてベッドに上がる。研磨の頭の上にあるアキの手からスマホを抜き取ると、ベッドサイドに無造作に置いた。抗議の声が上がるが、クロの「昼寝するんだろ」との声にアキは黙って頷いた。
アキの形のいい臀部がクロの腹に当たる。クロも研磨も男である。幾ばくかの情欲が浮かんでこないわけでもない。自分から飛び込んでいったピンチ、ではあるが抑えないわけにはいかないと、クロは大きく深呼吸をしてその目の前に有る首筋に顔をうずめた。程よく手入れされている髪の毛に指を差し入れ、梳く。

「あー、それやばい。本格的に寝る」
「おー、おやすみ。アキが寝たら俺も寝る」
「え、じゃあ寝ない…」

 クロは髪の毛を梳くのを止め、アキの下腹部で手を組んだ。

60を数えないうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。上下する細い肩をずっと見ていると、それがゆらゆらと揺れるメトロノームのように単調だと思った。だけれど、眼が離せない。…そのうち、必然的な沈黙が睡魔を誘ってくる。

「クロも負けず嫌いだよね」
「まあ、な」

 研磨は少し楽しそうに笑うと、おやすみ、とその瞼を再び閉じた。