Silvia

story


The sweet nothings that were imitated.


彼女は意地っ張りだからつい追い打ちを掛けて自分だけしか見えなくなるように意地悪したくなる。きっとこれは愛情の裏返しだ。愛がないとこんなことは出来ない。俺の視線に気づいたときにふと目線をそらす仕草も、俺が触れようとしたときに震えるまつげも、細胞の一つ一つまで愛し尽くしたい。他人には狂気に思えようとも俺は間違っていることをしているとは思っていない。ただ純粋に自分の心に正直なだけだ。 ああ、この俺が。最初は肩がぶつかる程度の出会いだったのに。こんなにもたった一人の女にのめり込んでしまうなんて。

「アキ、愛してる」

なんてちっぽけな言葉なんだろう!愛してる、だって。笑わせてくれる。いまどきこんなたった5文字の言葉で落ちる女などいるはずがない。この世界では幾度となく使われてきたであろうチープな単語。なのに俺は無意識にでも口走ってしまう。彼女が俺に振り向かないからしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく何時だって何処だって愛を囁いてやる。

一方のアキは心底迷惑そうな顔を俺に向けるけれどその表情でさえいつかは俺のものになると思うとワクワクしてくる。

「あの、臨也さんさあ、白昼堂々そういうこと言うのやめてくれます?それか他あたってください。臨也さん少し性格に難有りですけど、顔だけはいいから愛の一つ二つささやけば綺麗なお姉さん方が選り取りみどりですよ。」

「要らないよそういうのは。アキだけがいてくれればいいんだけど」

「間違っても私はただの貴方の部下です。手下です。下っ端です。そういう目的の相手として見られると非常に困ります。ていうか仕事しろ」

ソファに座るアキが叩くノートパソコンのキーボード音が随分と邪魔だった。ああ、アキのかわいい声が聞き取りにくいじゃないか。ソファの後ろから覆いかぶさるような形でアキを抱きしめた。両方の手首をそっとパソコンから離してやる。アキが振り返った。繊細な出で立ちの顔がすぐ近くまで来ている。赤い可愛い唇から舌が覗く。ああ、今すぐにでも口づけてしまいたい。嫌味を発するその口を己ので塞いでやりたい。

と、思った矢先。ため息混じりにアキが言う。



「私ね、臨也さん」



先程とは違った彼女の口調が俺に待ったを掛けた。ポツリポツリと話し始めるアキは酷く小さく思えた。身体も自分と比べて小さいが、そうでなく、彼女の気迫といえるものが先程までに比べて収縮しているように思えた。こうやって抱きしめるといつもなら全力で抵抗するのに何が起こった?アキの顔を覗き込むと、目線をそらされた。

「臨也さんが何にもとらわれないで自分の道を進んで行く姿が好きなんです。まあそりゃ、人としてどうなのかと思わせるところとかあるし、人ラブとか言われた日にはどう返事すればいいのかなとか思ったけど、私のこと特別に好きとか言われちゃうと…困るんです。あ、でも…あれだけ嫌だとか困るとか言っておいて何ですけど、臨也さんのこと実際は別に嫌いな訳じゃないです。というかむしろ好きっていうか…」

語尾がだんだん消え入るように彼女はそう言った。俺の耳とアキの口元は近い位置にあった為一字一句聞き漏らさずに聞こえた。なんだ?要するに彼女も俺が好きって事なんじゃないか。

猛烈に俺は叫びたい衝動に駆られた。だけれど自分の本能よりも恥ずかしそうに目を伏せるアキへの行動が優先的だ。



「だから、臨也さんにとって人類が恋人みたいなものなら私はその愛人でいいです。それでもいいなら愛してください。」

*

臨也はその白い頬に手を添えて、そのまま噛み付くように唇へと吸い付いた。リップ音を立てて離れると、今度は深くアキのすべてを確かめるように、そして今まで我慢していた分を一気に解き放つかのように、長い間鎖にとらわれていた身体を開放された囚人のように荒々しくアキを貪った。アキが抵抗しないのをいいことに臨也は少しずつアキをソファと自身の身体の間に入れ込む。苦しそうに自分の胸を押す、か細い二本の腕を邪魔だと言わんばかりに彼女の頭上で纏めた。

もともと恋愛経験の豊富でないアキはキスの息継ぎの仕方が分からない。しつこい臨也の接吻なら尚更だった。しかしながら酸素不足で朦朧とする意識は口内に入り込む臨也の舌の存在によって繋ぎ止められていた。

 臨也はこれほどにも無い快感と喜びに満ち溢れていた。アキの心がすでに自分にあったということと、アキが自分を正面から受け入れてくれたことに。
臨也はアキの全部に、全てに愛を注ぎ込んだ。自身の唇からアキの首筋に、愛を示す紅い痕を残し、まるで騎士のように白く細い指にキスを落とし。

臨也は決めた。
自分が死ぬまで──いや、死んだ後もアキに愛をささやき続けようと。それが例え安っぽい言葉であったとしても。飽きるどころか尽きない臨也のアキへの愛は彼女に捧げるしかやり場が無い。

アキはそれで自分も臨也も幸せになるならば安いものだと、臨也からの愛を受け入れようとその腕を臨也の背に回した。




「ああ、愛してる、俺は君を愛してるんだ。やっぱり君は愛人なんかには成れない。安心しなよ、君は立派な俺の女だ」



臨也の長い指がアキの胸元に重なったかと思うと、人差し指と親指で器用にアキの着ている白いYシャツのボタンを一つ、弾き飛ばした。