▽ story

画面
「あ、静ちゃんだ」
つけっぱなしのテレビの方に視線をやると、液晶画面越しに昔馴染みの彼の姿があった。私の言葉に白米を口に運んでいた臨也は物凄く嫌そうな顔をした。嫌いな奴のアキなのについつい反応してしまうのは臨也が本当に静雄を嫌ってるからだろうか。
『特集 東京・池袋24時』。なんとも胡散臭いゴールデン番組の中で池袋最強を特集していた。もちろん、頭に浮かぶのは彼なわけで。液晶の向こう側にはモザイク・プライバシー音声変換済みの金髪でバーテン服の男が自分の身長より大きい自動販売機を投げていた。知人がテレビに出る様に(合意かどうかは分からないけど)少し胸が高鳴る。画面に釘付けになって箸が止まっていると臨也が私に言った。
「チャンネル回していいかな」
「駄目」
予想されていた言葉が臨也から放たれる。私は速攻で拒否する。テレビを見ているので臨也の表情はわかったものじゃないけれど、いい顔はしていないはずだ。全く、折角波江さんが作ってくれた晩ご飯なのにそんなんじゃ美味しく戴けないじゃないか。…私の箸は止まっちゃってるけど。
「ま、静ちゃんもこんなトコ撮られるなんて馬鹿だねー。大体目立ちすぎだと思わない?テレビ局にもプライバシーなんてあったもんじゃないと思うけど」
「アンタがそれを言うのかい…」
あ、勿論目立つ目立たないのくだりじゃなくて、プライバシー云々の方ね。
情報屋なんて胡散臭いアキしているのにちゃんと情報を売ってるところがまたなんとも感想をつけにくい。プライバシーの”プ”の字が無いほど池袋の情報を網羅する彼の助手の一人が私であるけれども、彼の下にいることで判るのは呆れるほどその情報は確かだし、上質だということ。そして、それを知っているだけに敵に回したのならとても厄介だということ。
間違っても臨也を裏切る真似などしないけれど、彼の気持ちに応えてあげるということは…出来ない。
「本当、静ちゃんが好きだよね。本当、ムカつく」
諦め半分、嫌味半分で臨也の口から溜息と共に漏れた。私が反応することに期待していないだろう、どこか上の空で呟くようでもあった。テレビでは芸能人たちが大笑いしているのに、なんとも言えない沈黙が流れる。
私は一切臨也に静雄への気持ちを打ち明けたことはない。しかし臨也によれば、私が静雄を見る眼差しが臨也のそれと違うらしい。彼には解るんだそうだ。いつから知っていたのかを聞けば昔からとしか答えない。裏返せばそれは、臨也が私を見続けていた証拠にもなっている。それを考慮すると申し訳なく感じる。ただ、だからといって臨也を好きになろうとするのも違う。同情やそういった紛いモノの感情なんて臨也は喜ばない。謝ったってそれが彼のプラスになるかといったらそうでもない。どうしようもない焦りが私の背をなぞった。どことなく臨也から目線を外す。とっくに無くなった食欲が、目の前の彩り鮮やかな料理たちを霞めていった。
「まあ、どうでもいいけどね。静ちゃんが死んでくれたら関係なくなるし」
肯定も否定も出来ないまま、ただテレビへと目線を向けた。既に池袋特集は終わっていて、芸人がネタを披露していた。何を見ても表情がこわばる。
静雄が好きだけれども、臨也には嫌われたくない。そう思っている私は我侭なのだろうか。誰かに聞いてみたくなったけれども、唯一目の前にいる彼はただ静かに笑っていた。