▽ story

ファインドアウト
私はどうやらクラス内では真面目な女子、という位置づけにあるらしい。確かに髪の毛も染めてなければ化粧だって申し訳程度だ。成績も自分で言うのも躊躇われるが良い方だ。というわけで先生からの信頼だってあついし、別段クラスに馴染めないと言うわけでもないので生活には不自由はない。しかし何時まで経ってもその生活に新しいことが見つけられない。要するに私は暇なのだ。とても退屈している。できる事なら私はそんなに良い子ちゃんではないぞと曝け出して自分を変えるということもしてみたいのだがチキンな私にとっては難しいことである。
さて、放課後の今、現在私は先生に呼び出され職員室まで向かっている。何の用事があるのか分からないが、取り敢えず職員室まで行けばわかる。そう思い私は職員室に急いだ。
「失礼します」
一礼をし、職員室を見渡すと先生が誰かと話しているのが見て取れた。金髪の…あれは、平和島静雄?よくオリハラ、っていう人と喧嘩をしては備品を壊して怒られているっていう…。
兎にも角にも先生のところへ行かないと何も始まらない。平和島静雄のいい噂は聞かないため正直近づくのが躊躇われたが意を決して先生のところへ向かった。
「あのー…」
「おお、新藤、来てくれたか。いやー…呼び出した内容なんだが、」
言いにくそうに少しハゲた頭を掻くと、先生は平和島静雄をチラリと見た。彼とさっき話していた内容と関係があるのだろうか?予想はするけれども私と彼の間にはなんにも関係がない。
私もちらりと平和島静雄を見ると、…目が合った。彼の身長は思ったより高く、私が見下ろされているため、得体の知れない威圧感が私を圧迫する。
「コイツ、平和島静雄、知っているだろう?折原と喧嘩に明け暮れているみたいでなあ、単位がギリギリなんだ。そこで新藤にお願いがあるんだ」
…なんだろう。いつもは厳しい先生がこう、下手にでるときというのは嫌な予感がする。
「平和島に、勉強を教えてやってくれないか?」
ああ、ほらね、思ったとおりだ…
*
「…というわけで、この問題の答えはsinθ=√3/2になるわけ。分かった?」
放課後の図書室というのはテスト前以外は閑散としているわけで。私たちと司書の先生以外は誰もいなかった。私の声が図書室内に響く。男の人相手に物事を教えるというのが始めてだったので緊張で声が震えてないかが心配になった。
平和島君は意外にも物静かな人だった。見た目は金髪と、派手な感じなので性格も比例するのかなあと思いきや案外人の話を真剣に聞いている。小一時間ほど教えているが、飲み込みも早い。真面目に取り組めば成績上位だって狙えるだろうに。きっと折原とか言う人が邪魔するんだろうなあ…
「…なるほどな。お前の話、分かりやすいな。先生にでもなったらいいんじゃねえか?」
「え?」
さっきまで参考書とにらめっこを続け、私が話している間も「おう、」とか質問くらいしか言わなかったのに急に話掛けられると反応に困ってしまう。…今のは遠回しに誉められたのだろうか?
ずっと平和島君のノートと自分の手元の参考書しか見ていなかったので気づかなかったのだが、頭を上げて彼の顔を見ると窓から差し込んだ夕日が平和島君の髪の毛と混じり合ってなんともいえないほど綺麗な色を作り出していた。しばらく思考をそちらに取られていると、平和島君が私のアキを呼んだ。
「おい、新藤?」
「あ、え、いや…ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「なんで謝ってんだよ、つかお前真面目な奴だと思ってたら案外抜けてるとこもあんのな」
…始めて言われた。そんなこと。人前でミスするとか、抜けたところを見せたことが無いのでずっと真面目で何でもできる人なんだねと言われ続けてきた。本当は心のなかではそんな事はないのにと反発を繰り返してきたが一回も相手に伝わったことはない。
「ん、そうかもね。よく真面目だって言われるけどそんな事は無いんだよ。悪いことの一つや二つ、してやろうって気にもなるけど実行に移せないだけでさ。」
「自分を変えたいってやつか?」
「うん、できるならってくらいだけどね。真面目真面目って言われすぎて時々ムシャクシャするから金髪とかにしてやろうかなあって思う。皆びっくりするだろうなって。」
平和島君はシャープペンシルを置くと、頬杖をついた。そして私の顔をまじまじと見、不意に頬から手を離したと思うと、両手を私の方へ伸ばした。
「え?」
私が突然の出来事に目を丸くしている間にす、と掛けていたメガネを取られる。黒縁がフェードアウトしていくと同時に視界がぼやけてくる。目の前の平和島君もぼやけたが、彼がどのような表情をしているかくらいは分かった。
「やっぱりな。メガネ無ぇほうが可愛いんじゃねえか。お前、コンタクトにしたらどうだ?金髪まではいかなくともそんくらいで十分だろ。」
”可愛い”。同性ならともかく、異性から言われた事に驚きと恥ずかしさが込み上げてくる。しばらく口をパクパクさせていると平和島君は何を思ったのかそのメガネを装着する。
「いっつもこんな度が強いの掛けてて目ぇ疲れねぇのかよ」
どう対応したらいいのか分からず、下を向いて口篭っていると平和島君は少し笑って私にメガネを返した。メガネを外された上に”可愛い”などと言われると再び装着する気にもならず、手で弄んでいると、図書室内に控えめに下校を知らせるアナウンスが鳴った。と、同時に図書室の扉が乱暴に開いたかと思うと、楽しそうな声で「静雄くんいますかー?」と言う男の人の声が聞こえた。司書の先生が大声に注意しようとする前に静雄君が勢い良く立ち上がる。
「ノミ虫野郎か…。チッ、タイミングが悪い時に来やがって…。悪ぃ、用事できたわ。今日はサンキュな、また明日頼むぜ」
平和島君は「臨也ァー!!」と叫びながら図書室の外へと掛けていった。残された私はと言うと、目まぐるしく起きる展開についていけず、しばらくボーッとしていたのでありました。