Silvia

story


青い日

「静雄、昼飯なに食べたい?」
「そうっスね…」

珍しく休日が被った天気のいい日曜日、私と静雄はスーパーへと出向いている。お互い…といっても私が忙しいので普段買出しへ行けない分、数日分の食料を一気に買いだめしておく為に荷物がどうしても多くなる。そこで静雄の登場だ。池袋最強と呼ばれる彼を連れていけば荷物の心配はナッシング。怪力の彼なら重い荷物も片手で十分ってワケ。…休日にまでバーテン服なのは少しいただけないけど。

「アキさんは何が食べたいっすか」
「ん?私は何でもいいよ。サイモンとこでもいいし、ファミレスでもいいよ」

一つ私の方が年上なだけなのにこうも…なんていうんだろ、従順な感じ?フランクに言えば犬と飼い主みたいな感じだろうか。静雄を連れて道を歩くだけで人だかりが消えるほど恐れられているのに、箱を開けてみたらびっくり。一本のタコ糸ほどの細さの堪忍袋の緒さえ切らなければ気の利く礼儀の正しい青年よ?都市伝説…池袋で噂されている、その内容や静雄の仕事から考えればそりゃ、池袋で関わっちゃ不味い人ランキングの上位入りなんだろうけど、そんなの外面しか見ていない、もしくは噂しか知らない奴らの勝手なイメージであって。私にとっては、その…大切な恋人だ。本人の前じゃ死んでも言わないけど。

「あ、」
「どうしたの?」
「俺、プリンが食いたいっす」
「えー、昼飯にプリンって」
「え、いや、昼メシとは別で」

調度ヨーグルトやプリンといったデザートコーナーに差し掛かったところだった。身長180越えの金髪グラサン男が物欲しそうな顔をしながらプリンを眺めている。私だって鬼じゃない。プリンの一つくらい買わないことは無い。しかし、なんて可愛いんだろう。私の眼の錯覚だったら謝るけれど、若干、静雄の瞳がキラキラしているような気がする。

「いいよ。給料入ったばっかだしこっちの大きいやつでも、こっちのちょーっとばかし高い焼きプリンでも構わないわよ」
「…いや」

真剣に悩む静雄の後ろ姿が、なんだか小さい男の子のように見えてきてしょうがない。
静雄は、両手に異なるプリンを持って見比べていた。それはもう、いつにない位に真剣に。私はというと、明日の朝食時に出すヨーグルトを選んでいたのだけれど、気がつけば静雄は私の隣へと何も持たず戻ってきた。

「あれ、プリンはいいの?」
「アキさんプリンとか作れるっすか?」
「え…あー、菓子は勘弁。普通の料理なら出来るんだけど、ねえ。ごめん」

昔、学生時代に友人のバースデープレゼントして手作りケーキに挑戦したらこの世のものでは無い物体が…塩と砂糖を間違えたというレベルではない物が出来てしまって、それ以来お菓子作りはしていないと言う事を話すと静雄は何か考え始めた。やがて、一人でどこかに行ってしまった。一人残され、未だに何が起きているか分かっていない私は、再びヨーグルトへと目をやった。

しばらくすると、卵やらバニラビーンズなどを両手に抱えて帰ってきた。買い物かごに躊躇なく入れると、不思議そうな顔をしていただろう私に「一緖に作れば問題ないっす」とだけ言った。一緖に作ろうって魂胆だったのかと思わず苦笑する。

「まったくしょうがないなあー」

出来るだけ背伸びをして、彼の金髪を撫で回し、乱してやる。何するんすか、と静雄も私の髪の毛へと手を伸ばした。勿論、私の方主導権を握ることが出来るはずもなく静雄に丸め込まれる。カートを押しながら、隣で歩く静雄に肩からタックルをお見舞いしてやろうかと構えた瞬間に静雄に肩をホールドされる。くっそう、お見通しだったわけか。食品売り場が冷え切っているからなのか、若干静雄の手のひらは冷たかった。

「…可愛い」

突然ぼそっと呟かれた言葉に私は若干硬直する。わざと私から目線を外して静雄は言った。なんだか急激に恥ずかしくなって、黙りこくっていると静雄は一人でさっさと歩き始めてしまった。一人残されまいと慌てて駆け寄って静雄の二の腕を掴む。無駄なものがついていない引き締まった感触にちょっとばかしのときめきを感じながら。

「し、静雄こそカッコいい…よ」

ああもう!私がやられたように静雄にも恥ずかしい気持ちを味わってもらおうと、さっきの静雄に対抗して言ったつもりが予想以上に自分自身へのダメージが大きい。凄く…恥ずかしい。誰かに静雄がかっこいいよと漏らしたことはあっても面と向かって言うことなんて無かった。寒いと感じていた食品売り場が急にサウナになってしまったかのように身体が熱くなる。

…なにやってんだろう、自分。
しばらく下を向いてレジまで歩いていると、静雄が乱れていた私の髪の毛を指で梳いていた。さっきの気恥かしさと、静雄の指の心地良さに形容しがたい感覚を覚える。

──本日はなんとも青々とした日なり。